小児在宅医療に携わる方の経験を広げるために、インタビュー記事の掲載を開始いたしました。第3回のインタビューは、全国重症心身障害児(者)を守る会 重症心身障害児療育相談センター管理者の等々力寿純様です。医療的ケア児の親御さんがご自分で全てを担うことは難しいです。その中で、相談支援専門員と繋がることは重要だと思います。医療的ケア児支援法案は可決したことにより、相談支援専門員の重要性は増していると思います。
重症心身障害児療育相談センター
管理者
等々力 寿純(とどりき としずみ)
ケースワーカー・相談支援専門員
(医療的ケア児等コーディネーター)
当会が運営を世田谷区より受託している、重度・重複障害者通所施設「世田谷区立三宿つくしんぼホーム」(生活介護施設)において指導員として12年間勤務。その後現職場に異動し、児童指導員と兼務しながらケースワーカーとして相談業務に携わる。
平成24年10月1日当法人にて相談支援事業所(指定特定相談支援事業・指定障害児相談支援事業)を開始するにあたり現職となる。「最も弱いものをひとりももれなく守る」という当法人の理念のもと、重症心身障害児(者)を中心に計画相談に当たっている。現在およびこれまで世田谷区、東京都、国の重症心身障害児(者)・医療的ケア児に関連する会議や検討会、研究事業などに関わっている。
※社会福祉法人 全国重症心身障害児(者)を守る会:https://www.normanet.ne.jp/~ww100092/
※第3回小児の在宅医療を考える会でもご講演頂きました:https://www.shoni-zaitaku.com/topics/the-3rd-meeting/
■医療的ケア児に関わる人たちを繋ぐ「相談支援専門員」
三谷:本日は宜しくお願い致します。等々力さんがご担当されている「相談支援専門員」の業務内容と役割について教えてください。
等々力:「相談支援専門員」の役割は、障がいのある方やその家族のそれぞれの想いを大切にしながら、地域で安心した日常生活や社会生活を送ることができるように、相談に応じながら、専門的な視点でサポートを行うことです。主な業務は、日常生活に必要な支援をコーディネートすることです。具体的には、支援計画の作成、関係機関との調整、専門的な見地から生活に関するアドバイス等を実施しています。
障がいのある方やそのご家族の望む生活に向けて支援を行っていくには、多機関、多職種の連携・協働が必要になりますが、相談支援専門員には、それに向けたチーム作り、人と人を繋ぐ役割が求められ、障害者の支援体制構築の中で重要な役割を担っております。
三谷:医療的ケア児では、医療、介護、教育、就労など、様々な人が関わるため、人と人を繋げることは大変重要だと思います。何名くらいの方をご担当されているのでしょうか?
等々力:事業所には私を含めて3名職員が在籍しており、約260名の相談業務を実施しています。私以外の2名が主担当を持ち、私は全体を統括するという立場を取っています。一昨年度までは私1名で250名程度の方を担当していました。
三谷:2019年に本会でご講演頂いた際も伺いましたが、1名で250名も担当するのはすごいですよね。
等々力:私の事業所は、お子さんから成人までを対象にしています。260名の中で、約170名はお子さんになっています。また、事業所の名前の通り、重症児を主な対象にしているため、医療ニーズの高いお子さん、特に人工呼吸器を使用している方や気管切開をしている方が多いです。
三谷:ありがとうございます。他の事業所では、お子さんと成人の割合はどのようになっているのでしょうか?
等々力:相談支援事業所には、障害児相談支援(障害児通所利用者)を主に対象としている事業所、又は特定相談支援(障害児相談支援以外)を主に対象としている事業所、それら両方を対応している事業所があるため、事業所により割合は変わります。また、法人として通所サービスを行っているようなところでは、そのサービスを利用している方々への相談支援を中心に行っていることが多いです。当法人も通所サービスを相談支援事業所と同建物内で行っていますが、ご利用者の約2/3が外部の方々となっており、この部分は他の事業所とは違うところだと思います。
三谷:外部の方の割合が多いのは国立成育医療研究センターがある世田谷区という環境の影響ですか?
等々力:その影響が一番大きいと思います。
三谷:国立成育医療研究センター以外からのご紹介も多くありますか?
等々力:そんなに多くはないですが、大学病院等からのご紹介もあります。ただ、医療機関によっては、ソーシャルワーカーの方が相談支援の役割をまだ十分に把握できていないところもあり、退院時に相談に入ることができず、在宅に移行した後に相談に来ることがあります。特に、成育医療研究センター以外ではこのようなことが、今でも多々あります。
三谷:ありがとうございます。お子さんのご利用が多いとのことですが、相談内容はどのような内容になりますか?
等々力:相談内容は多岐に渡っています。新しい医療サービス(訪問診療・訪問看護、訪問リハ等)、また、リハビリ、装具作成などの療育センターの利用希望。通所サービスの紹介、在宅の生活を安定させるための居宅介護や親御さんの休息のためのレスパイトの紹介、移動の問題、保育園・幼稚園・学校に関する問題も多い相談です。
三谷:病院から在宅に戻る場合にご相談されるイメージだったのですが、すでに在宅に移行している方からもご相談は多くありますか?
等々力:以前よりは、退院時に相談支援に入ることは多くなりましたが、在宅の生活をしていく中で、困りごとを感じてご相談されるケースも多くあります。
■医療的ケア児を取り巻く社会資源について
三谷:退院時ではなく在宅に移行した後に、医療的ケア児の親御さんが相談支援をご利用されたい場合は、どのようにすれば宜しいのでしょうか?
等々力:どこかに繋がりたいと親御さんが思ったとしても、どうすればよいのか?と迷われることが多いようです。そして、多くの方は、行政の方に相談しますが、一般的には事業所のリストが渡されて、その中から選んで連絡してくださいとなります。その場合だと、親御さんから事業所にご連絡することになりますが、ここで相談支援事業所と繋がれたとしても、繋がった先が医療的ケア児に関わったことがない、あまり経験がない相談支援事業所(相談支援専門員)であると、なかなかその先の支援に繋げていくことが難しい状況にある等のミスマッチが起こることもあります。
ただし、ミスマッチが起こり、医療的ケア児に関わったことのない相談支援専門員の方でも、支援したいとやる気のある方であれば、問題はないと思います。「やる気」に勝るものはありません。本当に困って相談先に繋がりたいという親御さんには難しいでしょうが、少し余裕があるのであれば、親御さんも相談支援専門員と一緒に育っていくという視点を持ってもらえるとありがたいです。
また、その他事業所に繋がるためには、一番身近で、相談支援専門員の存在を知っていらっしゃる「訪問看護師さん」の存在は大きいと思います。訪問看護師さんはいろいろなご家庭に出入りしているため、きっとご自分の担当している利用者さんの中で、相談支援専門員(医療的ケア児の支援をしている)と関わりを持っていることもあると思います。そのため、そこにあたってみるのも良いのではないでしょうか。
また、他のことでもそうですが、「ママ友情報」も有益ですので、ご相談してみるのも一つだと思います。
三谷: 先日お話を伺った医療的ケア児をお持ちの親御さんは退院時に相談支援のご提案をされなかったとのことでした。退院時に、どのような基準で相談支援のご提案をされるのでしょうか?
等々力:退院時に相談員を付ける必要があるかという明確な基準は、ありません。ご本人の状態、ご家族の状況、在宅でどのような生活を望むのか、すぐに福祉サービスを使用するのか等を総合的に検討し、病院看護師、ソーシャルワーカーなどが、その必要性を判断することになると思います。相談員の存在を知らない状態で退院された方は、退院した後どうしたらいいのか、というところから困ってしまいます。そして、そのような方がまだ多くいるのが現実です。
三谷:医療的ケア児に関する社会資源はまだ少ないと思います。どのようにすれば少ない中でも上手く使うことができますか?
等々力:親御さんだけでそれらの情報を集め、検討し、利用していくには限界があると思います。正しい情報とコーディネートが必要だと思いますので、相談支援専門員を上手く使うことが大事だと思います。
三谷:親御さんが相談支援専門員に繋がることが必要だと思うのですが、等々力さんのご施設のキャパシティはいかがでしょうか?
等々力:ずっと前からキャパは限界です(笑)。ただし、ご相談の連絡を頂く方の中には、すでに数件の事業所からお断りをされているという方もいます。この方をお断りすると、親御さんはこの先も困り続けることになります。そのため、十分なサポートができないかもしれませんが、可能な限り対応をできるようにしています。親御さんが相談をできる場所と繋がっているということは安心できますから。
ただし、親御さんが何でもやってくれると思っている場合、うちでは対応できませんとお伝えいたしています。親御さんと一緒に考えて、一緒に進めましょうというスタンスを取っています。親御さんにもご協力して頂きながら、より多くの方々の方をサポートしていきたいと思っております。その結果、事業所のある世田谷を中心に4区にお住いの方々を対象に始めましたが、現在では、6区2市1村まで対象エリアを拡大して相談にあたっています。
■小児在宅医療における課題
三谷:小児在宅医療における一番の課題は何ですか?
等々力:一番は人材不足だと思います。関わっている人たちはスペシャリストで熱心な人が多いのですが、いつでもどこでもその人たちの同じ名前を聞きます。もちろんスペシャリストがいるということは良いことだと思いますが、その一方、なかなか新規で対応できる人材が育たず、特定の人を頼るしかない状況にあります。一極集中になると本当に支援を必要としている人がそこにたどり着くことが難しくなります。これは、小児在宅医療に関わるどの分野、職種においても言えることではないでしょうか。
三谷:小児在宅医療に関わる人を増やすためには何が必要だと思いますか?
等々力:新規参入者はなかなか増えてはきませんが、小児在宅医療に関わりたいという想いを持った人は多くいらっしゃると思います。ただし、十分な教育体制、サポート体制がないこと(各分野・職種で工夫しながら、そのような体制を築いているところもあるのかもしれない)が小児在宅医療にかかわる人材増につながらない要因の一つなのではないでしょうか。
私が関わっている相談支援の分野では、医療的ケア児に関わる前に育成指導、一定期間後からはフォローアップを丁寧に行っていくことで、微増ですが、人材の育成には繋がっています。日々の多忙な業務を行いながら、これらを行っていくことは大変ですが、これらの体制が整えられ、新たに始めたい、始めようとする人に安心感を与えられれば、関わる人を増やしていくことは可能ではないかと思います。
■医療的ケア児相談支援センターに関して
三谷:「医療的ケア児支援法案」に期待することについて教えてください。
※医療的ケア児支援法案:https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g20405034.htm
等々力:基本理念にもあるように、シームレスな支援やどこに居住していても適切な支援を受けられるようになることを期待します。医療的ケア児およびその家族を地域全体で切れ目なく支えていくこと。また、地域により社会資源、サポート体制に違いはあっても、活用できるサービスが大きく異なることがないよう、各地方自治体が支援制度整備に向けて、本格的な熱い議論を進めていかれることが望まれます。また、相談支援に関しては、「医療的ケア児支援センター」によってワンストップのサポート体制ができたらと思っております。
ちなみに私の事業所がある世田谷区では、数年前からこの構想はあったものの、なかなか進展しなかったのですが、今年度事業として成立し、8月から当法人が委託を受け、「医療的ケア児相談支援センター」としてスタートすることになっており、その準備に今追われているところです。先駆的な動きとなるため、まだ試行錯誤ですが、今後始まっていく上で参考となる部分を少しでも示していければと思っています。
※世田谷区医療的ケア相談支援センター:https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/fukushi/002/007/d00191191.html
三谷:「医療的ケア相談支援センター」はいつから開所予定ですか?
等々力:2021年8月からの予定です。国立成育医療研究センター中村先生、もみじの家の内多さん等の他、現在、小児在宅医療に関わっている多くの方々にご協力頂いています。
三谷:他の自治体でも同様に委託するケースは多いですか?
等々力:今後、各都道府県で設置していく医療的ケア児支援センターは、地域の中心的な施設に外部委託しながら進んでいくと思います。世田谷は先駆的に開始するため、全国に向けて発信できるようにしていきたいです。
三谷:世田谷区で支援センターの運用が難しければ、医療資源の観点から見ると、他の地域はもっと難しいのではないですか?
等々力:おっしゃるとおり世田谷には、そうそうたるメンバーが揃っているので、これまで以上に皆さんをサポートできる体制は作っていけると思います。医療的ケア児およびご家族が、安心して在宅生活を送っていくためにどこかに繋がっているということは大事だと思うので、現在、まだどこにも繋がっていない人、制度の狭間に落ちてしまっている人、支援を必要としているのに気づけていない人をどのように拾っていけるかも課題であると思っています。
■記事にご覧になられている方へのメッセージ
三谷:相談支援専門員としてのやりがいは何ですか?
等々力:どんなに障がいが重くても、医療依存度が高くても、彼らを支えるご家族や支援者の温かい想いと適切な支援によって、その子なりに必ず成長します。そのような成長をご家族、他支援者の方々とともに感じ、喜びを共有できた時に、この仕事は素敵だな、やっていて良かったなあと思います。
三谷:これから小児在宅医療を始められる方に何か一言お願いできますか?
等々力:お子さんや彼らを支えるご家族の成長を感じながら、自分も成長をしていけるとても素敵な仕事ではないかと思います。もし、最初の一歩を踏み出すのに躊躇している方がいらっしゃるのであれば、勇気を出して、一歩踏み出してみてください。その大変さや心配な気持ち以上に、自分に戻ってくるものは多いと思います。
そして、何か悩んだり、困ったりしたことがあったとしても、すでに関わってくださっている方々がきっとサポートしてくれるはずです。医療的ケア児に関わってくださっている方々は、皆そんな方々ばかりです。1人でも多くの仲間が増え、ともにサポートしていける体制を築くことができるようになれればと思います。
三谷:私も最初、小児在宅医療に関わろうとしたときに、等々力さん、国立成育医療研究センター中村先生、もみじの家の内多さんなど、多くの方々がサポートしてくれました。まず、飛び込んでみることが私も大切だと思います。本日は誠にありがとうございました。