【後編】第1回インタビュー 国立成育医療研究センター 中村 知夫先生

 第一回のインタビューは、本会の設立時よりご協力頂いております国立成育医療研究センターの中村知夫先生です。国立成育医療研究センターでの業務、小児在宅医療を取り巻く環境等について伺いました。
 今回はインタビューの後半になります。小児在宅医療はお子さん、親御さん、医師を含めたサポートする方々、皆で『ゼロ』から作り上げていくものだと思います。改めて小児在宅医療の面白さを感じたインタビューになりました。是非、皆さんも、小児在宅医療の面白さ、価値を感じてください。

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小児在宅医療・医療的ケア児に携わる方の経験を多くの方々に広げるために、ご専門の方のインタビュー記事の掲載を開始いたします。 第一回のインタビューは、本会の設立時よりご協力頂いております国立成育医療研究センターの中村知夫先生です。国立成[…]

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国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 
総合診療部 在宅診療科部長
医療連携・患者支援センター 在宅医療支援室 室長
中村 知夫先生

医療的ケアが必要な多くのお子さんへの診療、在宅への橋渡しを行っております。また、厚生労働省委託事業の小児在宅医療関連の勉強会等を通じた後継者の育成、医療的ケア児におけるAIを用いた医療・生活支援システムに関する研究等、幅広いご活動をされております。第7回小児の在宅医療を考える会でも、AIの小児在宅医療への活用についてご講演頂きました。

患者さんが受診するまでの流れ

三谷: 多くの患者さんを診察されていると思いますが、その患者さんは、クリニックからのご紹介でいらっしゃるのか、ご自身で調べてきて受診されているのか、患者さんが成育にたどり着くまでの流れを教えていただいてもよろしいですか?

中村: 患者さんが私のところに直接来ることはあまりなくて、成育の新生集中治療室、小児集中治療室、または、他院で集中治療を受けられた後の患者さんが多いです。そのあと、一般病棟に転院され、退院するときに私が主治医になることが多いです。

私は医療連携室も担当しています。例えば、「里帰り分娩で、地方で生まれたんだけれど、東京に帰って来るにあたって成育で診てくれませんか」とか。ポイントは、私一人で抱えてしまうと自分が診られるキャパを越してしまうので、私はどちらかというと『ハブ』になります。

私が診ないといけない患者さんも居られますが、院内の他の先生から「一緒に診てくれない?」という紹介を受けることもあります。それから総合診療部の中で、人工呼吸器の患者さんに長く関わってきたこともあり、「一緒に手伝ってくれませんか?」ということで診させていただくことが多いです。

直接というよりも、退院のときに一緒に診させていたり、同じ総合診療部の先生から依頼があったり、他の外科の先生からの御紹介や、他院から転院されてきたときに最初に在宅医療のことを説明できないから、「中村先生が説明してくれない?」「そのあとうまく繋いでくれない?」みたいなサービス業をやっています() 

三谷: 完全に『ハブ』ですね(笑)。

中村: そうですね、『ハブ』をやっています。みなさんも、親御さんにご理解いただけるように、少しずつご説明させていただくということをしています。

信谷: 成育全体では、最初の集中治療室に入ってくる方はどのような患者さんですか?

中村: 人工呼吸とか気管切開とか、ECMOなどの集中治療を受けて、そのあと治療が終わっても、そのまま帰れないという子どもたちもが多くて、医療的・社会的支援が必要な状況で帰られることがあります。そのような子どもたちは、1つの診療科ではなく様々な科を受診していることも多いので、同職者や医療者の支援も行っている感じです。

各専門家集団がいても、こどもを医療的にどの方向のベクトルに向けたいのか分からないので、院内カンファレンスで各科の先生方のご意見を集約して子どもたちの進む方向を調整しています。例えば、3つの科で手術しないといけない子どもがいた場合に、どの順番で手術をするのがいいのかを各科と話し合ってして、手術が終わってから私が診させていただいてその後の問題点を整理して、次の先生に繋ぎますね、みたいなことをやっています。変なおじさんです()

在宅医療への受け渡し

三谷: 先生の方からクリニックに患者さんを渡す際に、クリニックの選定はどのようにされているのでしょうか?

中村: 東京は子どもに特に強い訪問診療があるというありがたい地域ではあります。それは良い点ですが、二つ考えないといけないことがあります。子どもはいつか大人なります。そのため、特定のクリニックに集まってしまうと、良い点が発揮できなくなるばかりでなく、パンクする可能性がありますよね。1つのクリニックに集中しすぎると、そのクリニックが機能しなくなった場合、みんな行き場を失ってしまうから、それは考えないといけません。

また、大人になったときに、地域の病院との繋がりっていうのが希薄になったり、成育があったからなんとか小児期は乗り越えても、そのあと地域密着でないことがあります。そのため、ご自宅に近い在宅にお願いすることを検討するのですが、そのクリニックがその患者さんを診られるかどうか、という問題があります。

最終的にはFace to Faceなので、そのクリニックと親御さんたち、私たちらが思いを共有できるかどうか。特に大人を診ておられる先生は、保護者や患者さんが小児科の風土に慣れておられると、あっさりしていたり、ぶっきらぼうに感じて、傷つくことがありますよね。そこを私が仲介して、こういう患者さんですが診ていただけますか?と先生に直接お話して受診する許可をいただいて、そのあと一度親御さんに会っていただきます。医師と、保護者、患者さんに会っていただいた後に、感想をお医者さんと患者さんから聞いて、それなら在宅医に診ていただきますか、という感じです。

あとは、D to P with DDoctor to Patient with Doctor)なので、訪問診療をしたり、一緒に情報交換して、訪問医にも、保護者の方にも、患者さんにも、もし迷ったことが起きたらいつでも成育のお医者さんに聞いてくれれば大丈夫ですよというお話しをします。緊急時などは、成育は24時間救急外来もありますので、いつでも受診や入院を取ることができますよということをお話しすることで、お医者さんも支援します。そうすることで、複雑な医療的ケア児を診てくれるお医者さんが増えていく、こんな活動をやっています。

小児在宅医療に関わる人を増やすために

三谷: もっと小児在宅医療に関わる人を増やすことが大事だと私も認識しています。先生も後継者の教育をされていると思いますが、まだまだ小児在宅に関わる方は少ないと思います。色々な問題があると思いますが、先生は何が障壁になっていると感じますか?

中村: 小児在宅医療の本当の『価値』を、私を含め、みんなまだ作り出せていないと思います。小児在宅医療の潜在力、社会的なインパクトとか、医療者も社会も患者さんたちも、すごく良いことが生み出せるシステムという考えをまだ信じることができないでいると思います。私はもうこれはすごく良いものだと信じています。もちろん100%良いことばかりじゃない面もあるかもしれませんが、素晴らしい可能性を秘めていることがまだまだみんなの中で共有されていないと思っています。

医療が進歩して患者さんに必要な医療、支援、生活が変わっていきますが、その変化が他の医療従事者、地域の人たちになかなか伝わらないです。病院と地域では時間差がやっぱりありますよね。これをなんとかしないといけません。それは病院側の人間が発信しないと、地域としては変化に私たちついていけませんよ、みたいなところもあるじゃないですか。だからそこは病院側が発信して、サポートしながら地域と歩んでいくことを継続していかないと、病院の外と中の世界の時間的ずれがこれからも出てくると思います。

このことは私のような病院にいるものがやっていかないと、なかなか難しいなと思っています。そこで重要なのは、情報交換です。それに対しては情報交換に要する時間の確保や報酬が問題です。私が今行っていることが、「病院としては収入になるの?」って聞かれたら、すみません、みたいなところがありますが、それは多くの患者さんに、こどもの時から成人になっても当たり前に必要な医療を受けていただくための取り組みと考えています。

ずっと小児医療、病院での医療の中に患者さんを留めていても仕方がありません。やっぱり良い医療を多くの患者さんに受けてほしいですよね。そうすると、成育医療センターでの治療の席を空けて次の人に渡すということを続けないといけないので、そこは報酬という面だけじゃなくて、平等観や、みんなが良い医療を受けるという面でも、とても大事だと思っています。逆に、成人になっても成人の医療を受けることを選択できないことに憤りさえ感じます。

全然違う視野ですが、在宅の物品提供は、1つのキーだと思います。報酬のこともあるし、一つ一つの在宅物品を調整することって結構面倒ですよね。子どもは成長によって使うサイズが変わったり、急に要らなくなったりすることがあるので、在宅の小さいクリニックの先生にお任せするのは難しいと感じています。地域の医師会のような大きなところが在宅物品の在庫管理を担うと、もっと小児在宅医療に手を出しやすいクリニックが増えると僕は思っています。

三谷: 確かにそうですね。おっしゃる通りだと思います。

中村: 子どもを診てくれる大きな訪問専門クリニックは在宅医療にかかわる技術や知識を十分あって、小児のケアにも慣れておりますが、小さなクリニックではそこまで、医療知識も、事務的な操作も、医療物品の変更や物品管理をこまめに行うことは結構面倒くさいと感じられることも多いと思います。だから手を出せないので、そういう小児在宅医療の面倒であると感じることを誰かがカバーしてあげると、もうちょっと裾野が広がるかなあというのはあります。

三谷: 医薬品の話になりますが、共同購入とかフォーミュラリーが増えていますよね。それの物品版というイメージでしょうか?

中村: そうですね。物品が施設によってばらばらで違うっていうのも、もう少し統一できたり、大量購入だとコストダウンできるので、結果として患者さんにたくさん在宅物品が提供できる可能性もあり、是非医師会のような大きな組織がコーディネートする必要があるかなと思いますね。

新型コロナウイルスによる小児在宅医療への影響

三谷: 新型コロナウイルスが1年以上続いている中で、小児在宅医療の環境は、先生の中でどういう風に変わったと感じられていますか?逆に変わっていないことはありますか?

中村: 病院に行きたくないとおっしゃる保護者の方もおられるので、大人も含めて在宅医療は、一番コロナの影響を受けていない分野と言われているとお聞きしています。そのため、在宅医を使いたい、使っていて良かったという患者さんや、保護者の声はよくお聞きします。その一方で、新しい在宅の先生との関係の構築はどうしても最終的にはFace to Faceになるので、今までの繋がっていた先生には繋がりやすいけど、新しい先生方に繋がりにくい面があります。やっぱり画面だけではお互いのことが分からないじゃないですか。直接でしか感じられない『温度感』もありますよね。

三谷: 『温度感』は分からないですね。 

中村: 見えるものは分かるけど、温かいのか冷たいのか、オーラみたいなものはなかなか感じにくいですね。特に私は最初に小児の訪問診療をお頼みする先生の時は、どういう雰囲気の先生なのかが大事だと思っているので、温度感が伝わりにくいことにちょっと困っています。

もう1つは、成人の病院の総合診療部の先生と繋がりたいですね。子どもたちが大きくなった時に、大人の病院は各科の専門性が高すぎて、どの科にも罹れないので、大人の病院の総合診療部で、医療的ケア者を診てほしいなと思っています。現在は、成人の病院の総合診療部の先生方は今コロナ対策で大変な状況ですので、連携に関しては少し行き詰っています。

あとは、オンライン診療は今後進めないといけないですね。また、私も以前発表させていただいたように成育でAIの利用についての事業もやっています。個人の持っている経験値をAIに覚えさせて、この年齢でこういう病態だったらこういうサービスが使えるとか、様々な医療的ケア児に関わる情報を整理できたら良いと思います。今はコロナ禍で、患者さんのところに行くことも難しい状況でもあり、ウェアラブルデバイスでモニタリングすることは有効な方法になると思います。

在宅医の探し方

三谷: 総合診療部の成人の方を診ている先生や、地域の小児在宅クリニックの選定について教えてください。元々関係性がある方は連絡が取れますが、新しいクリニックはどのように探しているのでしょうか?

中村: 医師会を通して探していただける地域もあります。ただ、大体ご紹介いただく先生はもう知っている先生のことが多いですよね(笑)。あとは、訪問看護ステーションにお聞きします。他には、患者さんの地域の訪問医をネット等で調べて、その先生がやっておられる医療内容とかを見たり、すでに繋がりのある先生に私たちが知らない地区の先生を御紹介いただいています。凄く昔風ですが、よく知らない先生にお願いして本当に正解?ということもありますよね。親御さんたちも本当に良い先生かどうかって分からないですよね。会うまでどうか分からないし、先生方の情熱は見えないですよね。

三谷: その通りですね。

中村: 「すみません子どもは診られません」と断られた場合は、「分かりました、ご検討いただきありがとうございました。ところで、次回、先生にお願いする時はどういう患者さんだったら診ていただけますか?」「それなら18歳とか、何歳だったら診ていただけますか?」とか、そういう風にムチャブリしています()

僕たちも中学とか小学校の高学年になったら小児科医じゃなくて内科の先生に行きますよね。先生が医療的ケア児を診ることに不安を感じるようであれば、私たちがどのような医療者間の支援をしたら診てもらえますかね?というアイデアを私たちがお聞きする感じです。

三谷: それはとても大事だと思います。

中村: 小児科に関わる方々は優しい方が多いのでので、小児在宅を依頼して断られたら、すみませんって帰ってきてしまうことが多いのですが、そこはもう一歩踏み込んでどうしたら診てもらえますか?とお願いする必要があります。

三谷: 最近、入退院調整システムが最近増えています。効率面では大事だと思いますが、やっぱりFace to Faceでしかわからない『温度感』が大事だと改めて思いました。

小児在宅医療のやりがい

三谷:小児在宅医療、医療的ケアに関する情報をどのように得ることが多いですか?

中村: ウェブ講習会が最近多くて、大人の在宅医療をやっておられる先生の勉強会にもよく参加しようとしています。大人の先生方がどのようなやり方をされておられるのかを知ることは、大事なことなので、どうしたら子どもにも使えるかを考えています。

あとは、ネットで見たり、講習会はきっかけで、本当に勉強したいと思ったら自分で書籍を買うか文献を確認して勉強するっていうことを繰り返しています。在宅医療に関しては大人の先生方のやられていることを一生懸命勉強するし、疾患に関しては小児科医の広い知識を一生懸命勉強しながら、日々加齢と戦いながら頑張っています(笑)。睡眠不足で頭が働かない中で、体力勝負です(笑)。

三谷: 体力が一番大事ですね(笑)。医療的ケア児の診療で感じるやりがいを教えて頂けますでしょうか?

中村: このフィールドはまだまだ未開拓なので、患者さんを診療したり、色んなことを勉強すると日々新たな発見があったりとか進むべき方向を誰かが教えてくれるわけではないので、自ら開拓する面白さがあります。それが子どもと社会の未来に繋がることを実感できる素晴らしさがあります。

私も在宅の先生方にも頑張っていただきたいと思っていますが、やっぱり小児在宅患者さんたちは高度医療機関から地域に帰るため、高度医療機関がしっかり支援する、患者と家族の医療と生活を考え続けることも大事です。我々は小児科の研修機関なので、働いておられる若い先生がそういう視点を持って患者さんを診てくださると、5年後、10年後の小児医療の環境は変わると思います。

本当に一人ひとりの患者さんと正直に向き合っていると、親御さんからも色々と情報をいただくことができて、誰が上とか下とか関係がなく、みんなが持っているものはで皆でシェアする。その中で個人の引き出しも増やしていくというのを絶え間なくやることが大事だと思っています。そういうところが面白いです。

誰も教えてくれないけど、自分でいつも考えながら進んでいく感じです。みんなで考えることで、世の中変わる訳だから私ができるのは、そのきっかけ作りです。創れるものは時代によって変わりますが、「今だったらこれはどうですか?」などのいろいろな意見や考え方をみんなと一緒に話し合いながら進めていくことが必要です。それはきっと人との信頼関係に繋がってくる気がします。

三谷: 前と比べて減ってきていると思いますが、医師とコメディカル、患者さんと医師、介護と医療の壁がまだあると思います。そういうのは、医療の中で障壁というか無駄だと思います。今は、デジタルツールで誰とでもすぐに連絡が取れたり、患者さんもオンライン診療でどこのクリニックや病院にも受診できます。権威や情報を抱えることにメリットがないと思います。自分自身も横の繋がりができたらいいなと本当に思っています。

中村: やっぱりジェンダーも関係ないし、僕なんか年取っちゃうと、人から話し掛けられないような年寄りになっちゃいけないと思っています。やっぱり人から話し掛けられないと情報ももらえないので、みんなから話しかけてもらいやすいことが大事ですね。柔軟性が重要で、自分の凝り固まった考え方では、今の時代は生き抜けていけないです。

お互いに尊敬し合う、敬意を払う関係性も大事ですね。お友達も大事ですが、あんまりお友達になりすぎてもいけないかもしれないっていうのは思います。

三谷: 最後に、これから小児在宅医療に関わりたいという方々に向けてコメントお願い致します。

中村: 小児在宅医療はまだ固まった形がないので、地域差もありますし、『何でもアリ』です。みんなが本当に創りたい社会を実現するために、子どもの場合は人生も長いので、関わる人、巻き込む人もどんどん多くなります。そういう意味では自分一人で出来ることに限界があるので、色んな人に少しずつ関わってもらうことで、私はここまでやるけどここからはよろしくね、みたいなそういう仲間をたくさん作っていくっていうことが大切です。小児在宅医療と社会を変えるって事は同じことだと思うので、医療的ケア児や者が、普通に生活できるようになると日本の社会全体も変わってきます。そういう日本に僕は住みたいですね。

でもそのためには、みんなが努力しないといけないです。一人でするのは、苦しいからみんなも協力してって感じですね。時々へこたれそうになるので、こんな僕も一緒に助けてくださいみたいな感じです(笑)。