【前編】第1回インタビュー 医療的ケア児への診療について(国立成育医療研究センター 中村 知夫先生)

小児在宅医療・医療的ケア児に携わる方の経験を多くの方々に広げるために、ご専門の方のインタビュー記事の掲載を開始いたします。

第一回のインタビューは、本会の設立時よりご協力頂いております国立成育医療研究センターの中村知夫先生です。国立成育医療研究センターでの業務、小児在宅医療を取り巻く環境等について伺いました。

前半では、医療的ケア児への診療の具体的な内容を中心となっております。後半は、小児在宅医療のやりがい等をインタビューさせて頂きました。

国立研究開発法人 国立成育医療研究センター
総合診療部 在宅診療科部長
医療連携・患者支援センター 在宅医療支援室 室長
中村 知夫先生

医療的ケアが必要な多くのお子さんへの診療、在宅への橋渡しを行っ
ております。また、厚生労働省委託事業の小児在宅医療関連の勉強
会等を通じた後継者の育成、医療的ケア児におけるAIを用いた医療・
生活支援システムに関する研究等、幅広いご活動をされております。
第7回小児の在宅医療を考える会でも、AIの小児在宅医療への活用
についてご講演頂きました。

 

 

本題に入る前に…新型コロナウイルスから考えるフェアな医療行為とは?

三谷: 新型コロナウイルスのワクチンですが、高齢者の基礎疾患のある方が優先的になっていますが、医療的ケア児の方は優先になりますかね?

中村: 子どもはまず予防接種の対象ではありません。ファイザーのワクチンで16歳以上、モデルナとアストラゼネカのワクチンは18歳以上が対象になっています。難しいですが、例えば、高齢者か
ら打つのが良いのか、高齢者を介護している人に打ってあげるのが良いのか、というのがありますよね。

世田谷区も予防接種が始まりますが、本数が全然足らないです。最初に誰を対象にして、それをどうやって決めるのか難しいです。100歳以上の人が予防接種を打ちに来る行為自体が大丈夫なの
か、というのもあります。
すべての人に平等に行き渡らないワクチンで、何を守りたいのか?個を守りたいのか?組織を守りたいのか?社会を守りたいのか?亡くなるリスクの高い人を守りたいのか?という考え方ですよね。

障害を持っている人もそうですが、限られた社会資源というパイをどのように分配していくことが、みんなが『フェア』と感じるのか。それから逆に、個人にとって『フェア』なのか、社会にとって『フェア』なのかという見方が全然違います。例えば、先ほどのワクチンでも、経済を回そうと思ったら、若い人体に打ってあげた方が、新型コロナウイルスは広まらない可能性がありますよね。

三谷: その通りですね。

中村: でも、若い人たちは重症になりづらい。重症化する高齢者に打つけど、逆に若い人や、高齢者のケアをしてる人とかに打って上げた方が良いのか?そういうやり方が皆に通じるのか、みんなの中で理解されるかどうかですよね。

信谷: 正直、自分の家族のことまで考えてしまうとやっぱり、 おじいちゃんたちは心配なので、まず高齢者からと考えてしまうかなと思います。正解が本当に全然見つけられないです。

中村: やっぱり家族に高齢者がいて、自分の親とかおじいちゃんとかが亡くなってしまったら嫌だっていうその感情も大事ですが、その人がコロナにかからない方が良いと思ったら、働いている人、ウイルスを持ってくる可能性のある人に打つべきという考え方もある。間接的ですが、その方が予防できるでしょ、という考え方もあるので、どのような考え方が皆にとっていいのかなと思っています。

信谷: その通りですね。

三谷: 難しいですよね。日本は高齢化社会であるため、高齢者を優先しているところもあると思います。子どもの数がすごく多ければ、もしかしたら子どもから打ちましょう、となっていたかもしれないですね。

中村: 高齢の人がたくさんいるというのは、高齢者の人が亡くなるのを極力避けたいんです。日本では高齢の人が亡くなることは、普通ではないということです。

高齢者が亡くなるのは異常な状態だって日本では思うけれど、発展途上国などでは高齢者も、子供も亡くなるのは、当たり前の状況だと思うかもしれませんよね。

三谷: 環境によって考え方が変わりますよね。

中村: 社会構造というか、元々の社会がどういう構築をされているか?という考えですね。インフルエンザで亡くなる高齢者もおられます。だから、病気、今回は特に感染症で亡くなるということをどう捉えるか、という考え方も反映されていますよね。ワクチンが限られているため、この新型コロナワクチンの対象者に関してはみんなが深く考えないといけないことだと思います。

三谷: 難しいですね。倫理観、生命倫理ですね。

中村: 色んな事を考えて決めないといけないし、どのような決め方をしても、きっと誰かが不満を感じますよね。

三谷: 間違いないです。

中村: 皆にとって『フェア』は難しいです。医療的ケア児の支援もそうです。障害者もそうだと思います。難病の人もそうですが、難病の中にも色んな疾患や、色んな程度の方がおられるので、ある疾患の人だけが良くなったら、その他の人は良いのかというのもありますし、重い人ばっかりサポートを受けることができて、軽い人は支援がなくていいのかみたいなこともあるじゃないですか。同じ病気の中でもそういった分断が起きることがありますよね。

医療的ケア児の支援も、どの様なことでも不公平感は生じますが、私たちはお互いに支援しあうことができれば、不公平感を最小限にできると信じて進んでいくしかないと思っています。

国立成育医療研究センターの診療について

三谷: 先生のお仕事についてですが、1日で何名ぐらいの患者さんを診察されておりますか?

中村: 実際は、患者さんのお住いのところにお邪魔する在宅医療をやっているわけじゃなくて、病院の中で、医療的ケア児の支援をさせていただきつつ、患者さんを診させていただいています。週3回外来を持っていて、大体一枠5人から8人ですね。それ以外に若い先生と一緒に入院患者さんを毎日15人から20人診させていただいています。

私が病院で在宅医療を行う意味は、やっぱり『教育』ですね。医療的ケア児も診てくれる若い小児科医を養成することはとても大事だと思っていて、次の小児科医はこれから医療的ケアを必要とする患者を診ることのできる技量、知識を持たないといけないと思っています。普通は必ず月1回以上診ますが、地域の医療機関や在宅医にお願いして、私は3ケ月から半年に1回だけです。そのようにして、1日に診る患者さんを多くしない努力をしています。その代わりに、目の前の患者さんにたくさん時間を使って、丁寧にお話を聞いたり診察したりすることを心がけてい
ます。

例えば、夏休みで休みの時だけ当院に受診するとかして、潜在的に診させていただく患者さんはたくさんおられますが、外来ではたくさん診ないようにして、ひとりの患者さんに時間をかけられるようにするっていうのが私の信条、スタイルです。

収入的にはとても不採算な医療をやっております。だから、大体の先生は絶対に雇いたくないお医者さんです(笑)。

小児在宅医療と収益性

三谷: 国立成育医療研究センターは国立研究開発法人ですが、収益性は大事だと思います。診療と利益のバランスはどのようにされているのでしょうか?

中村: 病院の収入から考えると、外来訪問は儲からないです。病院は入院の方が収益が出ます。そういう意味では検査、手術や入院する人を増やした方が、病院の収入として上がります。外来に関しては、1人当たりの時間をかけても収入はあまり上がらないですが、在宅医療でも、ちゃんと報酬を考えた診療行為は取らないといけないと思います。在宅医療は基本的に高齢者、大人ベースにできているので、小児だと診療報酬制度が複雑です。

そのため診療報酬に詳しい人に入ってもらうことで、小児在宅でもどうすれば報酬上成り立つかをきちんと整理をします。
我々が整理することにより、在宅の先生にお子さんをお願いするときも整理された状況になっているため、在宅医の先生方にも受け入れていただきやすくなります。この患者さんだとどんな点数が取れるのか、という収支のバランスが見える状態にして渡します。報酬のことも含め、訪問診療でお願いすること、成育で行うことなどをお子さんの親御さんにお伝えして、継続した医療を一緒に作っていただきたいことをお願いしています。こんなことを、一生懸命やっています。

医療的ケア児への診療内容について

三谷: 1人の患者さんの診療に、どのくらいのお時間をかけているのでしょうか?

中村: 30分から1時間くらいかかりますね。私が喋っている方が長いです。

三谷: いつもと変わらないですね(笑)。

中村: いつもと変わらないです(笑)。子どもが病気で状態の悪いとき、急ぎのときはさっさとやらないといけないですが、普段の生活の中での困りごとを必ず聞いて、学校に行き始めるとか、保育園とか、親御さんのご兄弟が生まれるとか、色んな社会背景の変化の中で子どもと家族の生活も一緒に変わりうるため、ちゃんと生活できているのかを医療者としてお話を伺います。

その中で私たちが医療者としてできることと、ソーシャルワーカーさんに改めて入ってもらった方がいいなど、そういう切り分けを行っています。

三谷: 医師だけではなく、医療従事者全体でチームとしてお子さん、ご家族をフォローしている感じですか?

中村: そうですね。チームの中で私が仕分け屋さんとして、医療者としてやらなきゃいけないミッションを仕分けして、自分でやるところは行いますし、医療者は私ではなく外科の先生だったりすることもあるので、適切な医療者に紹介します。

社会的な支援だと、ソーシャルワーカーや地域の方とかに繋げています。それを繰り返しています。その中で問題点を聞き出して、解決策を次の外来のときに提案しています。

あとは、子どもたちは身長と体重が変わるので、状態が変わったときに、適切なデバイスや薬を医療者としてコントロールする、というお仕事もちゃんとしていますよ。

医療的ケア児の診療と通常診療の違い

三谷: 医療的ケア児の方と親御さんとの診療にお時間を長く取られていたり、医療的ケア児ではない小児診療と比べて、様々な方が介入されているように感じました。医療的ケア児と通常の小児診療の違いは他にありますか?

中村: やっぱり、常に『将来を考えること』です。この子どもと家族の1年後、5年後、10年後、20年後を考えたときに、今すべきことは何かを考えておきます。

三谷: 教育や就労についてですか?

中村: 色々な面です。就労もそうですが、親御さんたちの子どもの病気の理解だったり、社会支援の手続きでも、今のうちにこの手続きをしていた方がいいですよ、とかですね。病状も落ち着いてきたから、今まで薬をいっぱい使ったけど、やめられる薬はやめていった方がいいとかもあります。

プラスアルファだけではなく、引けるものも考えないといけないです。病気、生活、年齢とかを考慮して、1年後等の目標を共有しています。だから喋るのが長いんです(笑)。

三谷: 医療的ケア児以外でもそうですが、医師と長い時間お話できるって、患者さんとしてはすごく安心できると思います。

中村: 特に子どもの場合は、医療費が無料だったり、恵まれていますよね。みんなのお金で医療が回っているので、『医療はタダではない』と、私はいつも言っています。みんなのお金を大事に使う、ということだし、あなたが頑張ることは、他人が頑張ることにも繋がるわけで、皆が幸せになれることも考えながらどうアクションすべきかを正直に親御さんや子どもたちにもお話をさせてもらっています。

三谷: それすごく大事だと思います。患者さんだから、みたいな線引きがありますよね。自分も今仕事をしている中で、患者さんと医師のギャップを感じたりしているので、そこの目線を揃えることはすごく大事だと私も感じています。

中村: 自分の子は特別だ、と思いがちです。それは仕方のないことではありますが、「それだとみんなが逃げて行っちゃうよ」と伝えています。みんなと歩みを進めるためには、どうやったらうまくいきますかね、ということをいつも親御さんと話し合っていますよ。

医者だけでもできないし、患者さんだけでもできないし、みんなで次にやることはどうしたらいいかっていうことは話しています。

小児在宅医療での連絡ツールについて

三谷: 医師だけでなくて、院内外でいろんな連携を取られていると思います。院内、院外でどういうツールを使ってコミュニケーションを取ることが多いですか?

中村: 実は今それが一番難しいと思っています。在宅の多くの先生方は、多職種連携用SNSを使用しておられます。在宅の先生では良いですが、病院という組織にいるとなかなか使いづらいです。セキュリティの問題がありますし、患者さんから主治医のところに直接連絡が飛んでくると、そればかりやっているわけにもいかないので対応が遅れてしまいます。

また、医療情報を交換するということが、診療報酬として認められるかどうかがとても大きいと思っています。医療情報を交換することに割く時間って、他の先生方も含め結構みんな多いですよね。私は正確な情報やアドバイス等の付加価値、専門職の知識と時間を使っていることに関して、それらをコストだけでなく、どのように対価にするかは結構大きな問題だと思っています。

患者さんが色んなところに行けたり、様々なサービスを利用できると、情報交換の頻度はますます高くなります。結局医者も、時間外勤務が増えざるを得なくなります。
だから、それは本当に医者でなければいけないのか、セキュリティの問題と、利便性プラス時間と知識を使うことの対価、というのをどうすべきなのかというのは、今とても悩んでいます。

三谷: 多職種での連携や、退院カンファ等がコミュニケーションツール上で実施できて、そこに点数が付けば、院内ではセキュリティの問題がありますけど、もっと院外で使いやすくなりますか?

中村: そうですね。退院カンファはWeb会議ツールでみんなやるようになりました。スピーディーな情報連絡は、昔みたいに集まってする必要がなくなり、とても良いことではあります。Webに対する診療報酬の形で退院カンファレンスをする、それを認める、今そういう一行が規定に載っているのかどうか私はそこまで知りません。

それからD to P with D(Doctor to Patient with Doctor)といって、例えばてんかん、難病とかの人は、かかりつけ医の先生と専門医が一緒にWebを使って患者さんを診療します。オンライン診療ですね。
医療的ケアで、特別な疾患や難病で、 在宅の先生が子供のことを診ても分からないというときに、D to P with Dを活用すると、在宅の先生、親御さん、子どもたちも安心だし、私たちも状況がよく分かるので、もう少し進んでほしいと思っています。

三谷: 確かにそうですね。制度面ではまだまだ追いついていないところがありますね。

中村: 難病、てんかんは結構進んでいますが、医療的ケア児を、特に地域で見てくれる資源と質と量を増やすためにD to P with D というのは、私はとても良い方法だと推しています。

三谷: 大事だと思います。D to P with Dでは、てんかんと指定難病疑いが対象ですが、遠隔連携診療料で500点取れますね。もっと幅が広がってくると、もっと使いやすくなる気がします。

中村: ドクターがいない地域では、絶対に良いですよね。

三谷: そう思います。ありがとうございます。

後編はこちら

 第一回のインタビューは、本会の設立時よりご協力頂いております国立成育医療研究センターの中村知夫先生です。国立成育医療研究センターでの業務、小児在宅医療を取り巻く環境等について伺いました。  今回はインタビューの後半になります。小児在宅医[…]

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